愛人に偽装結婚させ、その相手を大量の薬物と酒で殺害。「有料記者会見」で話題に。

本庄保険金殺人事件とは、1995年から1999年の5年間にかけて埼玉県本庄市で起こった保険金を目的とした一連の(3つの)殺人事件である。
この殺人事件の被害者は全員、八木茂の経営するパブ・スナックの男性常連客であった。これらの男性常連客に対してホステスと偽装結婚させた上スナックホステスを受取人とする生命保険を掛けた上で、店内にてドリンクや風邪薬などに毒物をまぜて摂取させ、殺害し、高額な保険金を手にするという悲惨な手口であった。
犯行の経緯や動機
埼玉県本庄市内において金融業(街金融)を経営する主犯・八木茂(50歳、事件当時)が、自身が営むパブ・スナックのホステスに対して常連客と偽装結婚をさせた上に保険金を目的とした殺人を3度実行させた。
1999年7月に第3の事件の被害者が「自分も殺される」とマスコミに告発した結果、保険金殺人疑惑が発覚して報道された。
この前年には和歌山毒物カレー事件が発生していたので、世間からの注目度はとても高く、八木は殺人疑惑発覚から逮捕まで約8ヶ月間もの間「有料の記者会見」を203回実施した。

この会見は、自分の店を会場にして記者1人に対して3000円から6000円の入店料を徴収する形の物であり、八木はおよそ1000万円稼ぐという前代未聞の行動をおこなった。
八木の逮捕が近付くにつれ記者会見の参加者はどんどん増加し、1999年12月以降は、ほぼ連日テレビの情報番組や夕刊紙・週刊誌にて取り上げられた。
この記者会見の内容は自身の潔白を訴えるものばかりであり、時には記者とと雑談したり、カラオケを行ったり、店内をキックボードで走り回ったり、特技の射撃を披露したり、ひどいときには毎日新聞の記者を殴打したこともあった。
当初から状況証拠は限りなく黒に近かったものの、確定的な物証がなく捜査は難航した。しかし、最終的にはホステス3人の証言をきっかけにして、2000年3月に八木とホステス3人を偽装結婚による公正証書原本不実記載容疑に
より逮捕した。
その後殺人罪や詐欺罪などで検察から起訴された。八木に関する判決は2008年に最高裁判決で死刑が確定した。ホステス3人も既に有罪が確定している。
3つの一連の事件に関する詳細は以下のとおりである。
第1の事件
1995年6月、八木とホステス3人(武まゆみ(32)、アナリエ・サトウ・カワムラ(34)、森田考子(38))は、八木の経営するパブ・スナックにお客として訪れていた元工員の45歳男性に対して、過労死作戦や成人病作戦などと称した作戦を実行した。この作戦は、長年にわたって多量のアルコールを摂取させたり、睡眠不足となるよう仕向けたり、さらに少量のトリカブトを男性の好物の饅頭やどら焼きに混ぜて一定期間継続的に摂取させるものであった。
しかしながら、この男性は一向に弱らなかったため、致死量以上のトリカブトが入ったあんパンを食べさせ殺害した。その後、この男性は利根川で水死体として発見された。この際、保険金約3億円が偽装結婚相手のホステスに支払われた。
この殺人事件ではその後、生命保険会社がAとホステス3人に対し保険金返還の民事訴訟を起こしており、八木とホステス3人に対して返還を命じる判決が下されている。
第2の事件
1999年5月29日、八木とホステス3人は、八木の経営するパブ・スナックにお客として訪れていた元パチンコ店員の61歳男性に対して風邪薬と酒を大量に飲ませることにより殺害した。この男性には、偽装結婚相手のホステスを受取人とする生命保険が掛けられており、このとき支払われる保険金は1億7000万円であった。
第3の事件
1999年5月30日、八木とホステス3人は、八木の経営するパブ・スナックにお客として訪れていた元塗装工の38歳男性をドリンクなどに薬物を注入し、薬物中毒に陥らせた。その結果、この男性は重体となった。この男性に対してもこれまでと同様に、偽装結婚相手のホステスを受取人とする生命保険が掛けられており、支払金額はなんと過去最高額の9億円であった。
体調不良を訴えた男性が病院に入院したことから殺人未遂となり、この男性がマスコミに告発したことにより保険金殺人が発覚した。
捜査の結果、アナリエの元夫の元工員の45歳男性が1995年に埼玉県行田市の利根川で水死し、自殺と断定され、3億200万円の保険金が支払われていた。
また、八木の知人8人に合計24億円の保険金が掛けられていることも判明。しかし、決定的な物証が得られなかったことから八木の逮捕には至らなかった。
しかしその後、科学分析の結果、元工員の男性の毛髪から市販の風邪薬に含まれている「アセトアミノフェン」が大量に検出された。また、この成分をアルコールとともに大量に服用すると、肝障害を起こして死亡に至る危険性があることがわかった。
八木、逮捕へ
2003年3月24日、警察は虚偽の婚姻届を提出したとして「公正証書原本不実記載容疑」で八木ら4人を逮捕した。
八木は事件への関与を否定したが、武まゆみが自供し、前述の通り、事件の真相が明らかとなった。
八木は地元で金融業を営み、法外な金利と悪質な取り立てで私服を肥やしていたが、株の損失補填のための資金繰りに困窮していたという。
判決とその後

八木は無罪を主張し続けたが、2008年7月17日、最高裁が1審・2審の死刑判決を支持して上告を棄却し、死刑判決が確定。
しかし八木は死刑判決後も、これを不服として再審請求を行っていたが、2015年7月31日東京高裁(村瀬均裁判長)は、八木茂死刑囚の再審開始を認めない決定をした。また、2016年11月28日、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は八木茂死刑囚の再審開始を認めない決定をした。これを受け、再審請求を退けた一、二審の判断が確定した。
現在は東京拘置所に収監されているが、一貫して無罪を主張しており、再審請求中である。
ホステス3人についても、武に無期懲役、アナリエに懲役15年、森田は懲役12年の判決が下されているが、しかし、有罪判決が確定後も、ホステスの証言は警察に誘導されたものであり、冤罪であると弁護団は主張している。(と言いながら、武は犯行に関する独白本を出版している…)