密室だったと判断され、自殺として処理された未解決事件、他殺の可能性は本当にないのか
茨城県日立市で、女性ネイリストの阿部香織さん(当時29歳)が、同居している婚約者と経営する美容院兼自宅と、隣家との間の敷地で倒れているのが発見され、その後死亡した事件。
顔には打撲、首には紐を巻き付けられたあとがあり、死因は頸部の圧迫による窒息死だった。この事件は現在も未解決である。
事件の経緯と詳細
事件が起こったのは、2007年の5月24日。
香織さんは、同居している婚約者である鈴木文武さん(当時39歳)との結婚を間近に控えていた。
2人には、共同で美容室を経営するという夢があった。5月24日は、彼らの美容室のオープン日であった。
午後6時、香織さんは鈴木さんと2階の居間で来客に対応していた。45分頃になると、鈴木さんは仕事で1階の店舗へ降りた。
午後7時10分頃に香織さんは客の見送りをした。倒れているのが発見される前に香織さんの姿が確認されたのは、これが最後である。
午後7時30分頃に、1階の従業員が2階から大きな音がするのを聞いたという。その後午後9時に、店舗は閉店。
そして9時20分頃に、鈴木さんはこの事件の第一発見者となった。
鈴木さんは、寝室にある出窓が開いていて、そこから1本のコードがたれているのを目にした。寝室にあったフットマッサージ機が接続されているはずの電源コードだ。
鈴木さんは、携帯で香織さんに電話をかけながら、美容室と隣家の間へ向かった。そこには、首に何重にもコードが巻きついた状態で仰向けに倒れている香織さんの姿があった。
鈴木さんは救急車を呼び、心臓マッサージをして意識を戻そうとした。
その後救急車はすぐに到着した。鈴木さんは救急隊員に同乗を求められたが、「同居する母が心配だ」という理由で断っている。
そして午後10時45分後、搬送先で香織さんの死亡が確認された。
司法解剖の結果、死因は窒息死であった。寝室にはちぎれたネックレスが落ちており、布団は乱れ、壁には血痕、ベッドと壁の間には結婚指輪が落ちていたという。
不可解な点
この事件は現時点で未解決であるが、当初からメディアや世間から、第一発見者であり婚約者の鈴木さんが犯行に関与したのではないか?と疑われている。
まず、自殺の線は考えにくい。理由は2つある。第一に、死因は窒息死であり、顔に大きな打撲、部屋に血痕など争ったような跡が見受けられた点だ。
部屋に落ちていたちぎれたネックレスや結婚指輪も、自殺ならば納得のいく説明が難しい。
第二に、香織さんが死亡したのは婚約者との美容室のオープン日だ。幸せの絶頂と言えるような状況である点だ。香織さんが自殺をする理由はないように思える。
鈴木さんが疑われているのにも理由がある。
事件が起こった2階の寝室は、1階が店舗であり外に設置されているハシゴの利用形跡がないなどの点から、外部の人間が侵入することが困難な状態であった点だ。(実際に、外部から侵入された形跡は見つかっていない)
とすると、犯行を行ったのは、まず内部の人間だろうと考えるのはごく自然なことのように思われる。
また、鈴木さんは、どうして救急車に同乗しなかったのだろうか?
母親が心配だという理由は、婚約者の生死がかかっている状況で同乗を拒否するほどのものだろうか。証拠を隠滅する時間が欲しかった、と考えることもできる。
そして驚くべきことに、美容室の開店準備金の4000万円のうち殆どは、香織さんの両親が出していたそうだ。また事件後、鈴木さんはすぐに元妻とよりを戻し、再婚している。
事件当初から、警察やマスコミはこのように鈴木さんを疑っていた。しかし事件から13年もの月日が経った今でも犯人は見つかっていない。
その後
婚約者である鈴木さんへの疑惑の目もあるが、一方で、「香織さんはメールや電話で頻繁に友人に悩みを相談していた」「首を絞められたのに抵抗したあとが見受けられない」など、他殺を否定するような意見もある。
本当に彼女は誰かに殺されたのだろうか?鈴木さんは犯行に関与したのだろうか?結局のところ、真相はまだ何も分かっていない。
事件が起こってからおよそ2年半後、マスメディアの取材に対して香織さんの父である喜一さんはこう述べている。
「自殺なら自殺でもいいと思う」
「(警察は)何も判断していない。親としては、早く解決してもらいたい」
大切な娘を失い、事件の真相は未だに明らかにされない。父親や家族は今も苦しんでいる。一刻も早く事件の真相が明らかになるのを願うばかりだ。