“美女4000人に30億を貢いだ男”、紀州のドン・ファンの怪死事件
「紀州のドンファン」と呼ばれた資産家・野崎幸助氏(77)が2018年5月24日夜、自宅2階のソファで死亡しているのが発見された。
資産家として有名であった野崎幸助氏は、女性との交際が自由な人物であったということでも有名であり、野崎幸助氏が出版した『紀州ドンファン』では「美女4000人を抱いた」と公言している。
2018年2月には55歳年下の女性と結婚し、世間を驚かせた人物の死は、さらに世間をざわつかせた。
事件の経緯と詳細
野崎幸助の生い立ち
野崎氏は1941年和歌山県田辺市に七人兄弟の3男として生まれた。野崎氏が生まれた家庭は決して裕福なものではなく、中学卒業後はすぐに働くことが当然であったという。
金持ちになることを目標とし、様々な商業をおこなった。その結果徐々に資産を増やし、高級クラブなどにも出入りするようになったという。
2度の離婚を経験するが子どもはおらず、家族は愛犬のミニチュアダックスフンドのイブちゃんだけであった。「全財産をイブちゃんにやる」と周囲に話すほど溺愛していたという。
覚醒剤の謎

はじめに遺体を発見したのは野崎氏の妻・須藤早貴(22)と家政婦・竹田純代(67)であった。
検査の結果、野崎氏の遺体からは致死量以上の覚せい剤が検出された。しかし注射などの跡がなかったことから、何者かに覚せい剤を飲まされた可能性があるとし、容疑者不詳の殺人容疑で捜査が進められた。
野崎氏に関わる場所や人物について捜査するも、手掛かりを見つけることが未だにできていないという。
また、野崎氏自身が覚せい剤を飲んだという可能性、事故の可能性についても捜査がされているがこちらもまた解明されておらず長期化している。
事件当日、自宅の隠しカメラ数台が止まっていたということから外部の犯行についても捜査がなされているがこちらも平行線のままである。
ちなみに、野崎氏と50年来の友人男性は、覚せい剤を野崎氏自身が飲むという可能性を否定しており、また、会社の従業員も人間ドックに年3~4回ほど行くなど健康には非常に気を使っていたと証言している。
野崎氏の生前の生活は非常に朝が早く、午前10時ごろには仕事が終わっていたという。そして、午後からは2階の寝室にこもり、一階におりてくることはなかったとされている。
事件当日
事件当日である5月24日の一日の流れは次のようであったとされている。
午前9時50分頃、裁判所に行く用事があったため妻に運転してもらい車で向かう。そして妻とともに昼頃に帰宅。
帰った際自宅には家政婦が作った夕食用のうどんと置手紙が置かれていた。
午後6時頃妻とともに一階のリビングで夕食を食べていたが、うどんには手を付けることなくビールを飲んでいたという。
その後、野崎氏は2階に行き、妻は一階でテレビをみていた。そして午後7時30分頃、妻がお風呂から上がったタイミングで家政婦が帰宅した。妻と家政婦は一階で一緒にテレビを見ていたという。
しばらくして2階から「ドンドン」という音が鳴ったため、午後9時30分ごろ様子を見に妻が2階へと向かった。
すると妻が野崎氏の異変に気付き、家政婦を呼びに一階へ行き再び2階へと2人で確認しに行った。家政婦が野崎氏を確認すると体がカチカチに固まった状態にあったという。
その後すぐに妻が救急車に電話。救急隊が到着するまでの間、救急隊の指示に従って心臓マッサージを行うも野崎氏が息を吹き返すことはなかった。
死因は、前述の通り、急性覚醒剤中毒であった。
事件のその後
その後、現在でも覚醒剤の入手経路や、自身で使用したのかどうかは解明されておらず調査が引き続き行われている。また、亡くなられた野崎氏が資産家であるということから遺産を巡る裁判が行われた。
野崎氏の遺書に関する裁判(第一回口頭弁論)が和歌山地裁で開かれた。
野崎氏の遺書には全財産を田辺市に寄付することが記されており、田辺市は約13憶2千万円もの額を受け取る方針を示した。
しかし、このことについて、保管のされ方や発見の経緯が不自然であり野崎氏以外の別のだれかが作成したとして、親族4人が田辺市に訴訟を行ったのである。
野崎氏の兄にあたる豊吉さんは、「大の役人嫌いだった幸助が田辺市に寄付するとはどうしても思えない。我々遺族は遺言書の無効を求めて、訴えを起こしています。裁判は6月の初旬に始まる予定です」と雑誌取材に答えている。
ちなみに、田辺市はこの訴訟に対して約1憶1700万円を含む予算を可決している。
また、家政婦は野崎氏が亡くなった際、4000万円の退職金を出すといわれており、妻から遺産のうちの4000万円を受け取る手はずがなされていた。
このようなことからも妻と家政婦は野崎氏の遺言書に驚きを隠せていなかったという。
この事件ではいまだに解決されていないということもあり、非常に多くの謎が残る。
何者かによる犯行であるのか、または本人が自ら命を絶ったのか様々な憶測が現在でも飛び交っている。
警察による新たな情報
その後の警察の調査の結果、最近、新たな情報が報じられた。
2020年の年明け、”ドンファン”の家政婦であった竹田純代さんが久しぶりに事情聴取を受けた際に、掃除機に関しての質問が多くされたという。

竹田さん曰く「今年の年明けに、和歌山県警の男女二人組の刑事から久しぶりに事情聴取を受けました。聞かれたのは、社長の自宅にあった掃除機について。どこで買ったのか。最後にいつ使ったのか。そういったことを細かく聞かれました」とのことである。
理由としては、掃除機から覚せい剤が検出されたためであったという。
このように現在でも調査は続いており、新しい情報なども度々報道されている。
しかし覚せい剤の成分は人間や動物の体内に入ると変化するということから、元の覚せい剤まで同じことを証明することは容易でないとされており、今後も慎重な調査が行われると考えられる。
ドンファンの妻、刑事告発へ

8月18日、雑誌『FRIDAY』によって、野崎氏の妻が逮捕される可能性について言及がされた。
野崎氏の妻・須藤さんは2018年7月30日付で亡き夫の後を継ぎ、酒類販売会社「アプリコ」の代表取締役に就任していた。
問題となったのはその経緯で、須藤さんは正式な手続きを行わずに社長に就任していたという。
アプリコのような取締役会設置会社の場合、臨時株主総会は取締役会の決議で招集される。野崎氏の死後、アプリコの取締役は家政婦の竹田純代さんと、野崎氏の友人M氏の2名だった。
つまり、竹田さんとM氏が臨時株主総会を開かなければ須藤さんは代表取締役に就任はできないわけだが、竹田さんらが株主総会を招集した形跡は一切ない、というのだ。
また、須藤さんは野崎氏の怪死から約3ヵ月が過ぎた2018年9月6日、アプリコのゆうちょ銀行の口座からSさんの口座に、3834万6278円の振り込みがあった。
そうなると、正式な手続きを経ていなかったにもかかわらず、須藤さんは正式に社長に就任したかのように見せかけ、ゆうちょ銀行を騙してカネを振り込ませたということになる。
こうして、”詐欺”の容疑で告発されることになったのだという。
派手な私生活の裏側
北海道札幌市で生まれた須藤は、地元の公立小中高を卒業した。同級生らの証言によれば、それまで地味な印象だった須藤の様子が劇的に変化したのは、市内の美容専門学校への入学後のことである。この頃から、須藤はブランド品で身を包み、夜間にサングラスをかけて街を歩く姿が目撃されるようになった。
当時キャバクラで勤務していた須藤は、店で知り合った男性から合計約3000万円を詐取した。ドンファン殺人裁判の開始前に、須藤はこの男性に対する詐欺罪で起訴され、懲役3年6カ月の実刑判決を受けている。
美容専門学校を卒業した須藤は2016年に上京した。札幌時代から運営していた早貴のInstagramには、高級フレンチなどの食事、ライトアップされたナイトプール、ドバイをはじめとする海外旅行先の写真など、華やかな生活の様子が次々と投稿されていったという。

ちなみに、ドンファンの妻は過去に「ゆりか」という名前でアダルトビデオに出演していた疑惑についても報じられていた。(2025年3月現在、当該アダルト動画配信サイト・タイトルも現存している)
これについては、2024年9月12日の公判にて、検察側から「被告人は遅くとも平成28年(2016年)11月頃から、複数の高級デートクラブに登録し、活動していた。また、同年12月頃から、無店舗型性風俗特殊営業店派遣型、いわゆるデリバリーヘルスで接客していた」「被告人は平成29年(2017年)3月31日、デリバリーヘルスで接客中、利用者に同店での収入が少ないと不満を漏らしたところ、利用者がアダルトビデオ関係者であったことから、アダルトビデオに出演すればまとまった収入が得られると言われた」と指摘されている。
また、文春オンラインの取材に対して、風俗関係者はこう答えている。
「須藤は、16年の冬頃から1年ほど都内のデートクラブに登録していた。源氏名は『愛音』。最上級クラスの分類で、男性会員が支払う紹介料は10万円だった。須藤は、客に外見や性格ではなくお金を求めた。典型的な“プロ愛人”でした。同時期に働き始めた高級デリヘルでは『ミキ』の源氏名で、客単価4万円を取っていた。店の取り分を引いても、1日6万円から8万円は稼いでいた計算になります」
「AV作品4本に出演し約38万のギャラを…」“紀州のドン・ファン殺人公判”明かされた55歳年下妻・須藤早貴(28)の「AV出演の経緯」と「過去がバレた瞬間」
さらに同誌の取材によると、須藤は仕事内容や報酬について質問し、後日、AVプロダクションの面接を受けたという。
そして4月12日付でAV女優としてのマネジメント契約を締結した。
AV撮影は同年の8月4日、8月22日、9月4日、9月10日に実施された。須藤は計4本のアダルトビデオに出演し、出演料として同年9月に20万6517円、10月に17万9580円が須藤の口座に振り込まれた。こうして計38万6097円を得ることとなった。
また時を同じくして、須藤はこの頃からこのAVプロダクションの系列のデリバリーヘルスでも働き始めていた。デリヘルの勤務期間は、同年5月1日から12月7日までで、ちょうど野崎氏と出会い「月100万」での愛人契約を結んだタイミングで辞めた計算である。
だが、すぐにAV出演の過去が野崎氏にバレてしまった。
初公判では、須藤が55歳差の野崎氏と結婚したのち、友人らに「(夫である野崎氏の)自然死で遺産を得る」と話していたことが明かされたが、野崎氏に過去を知られ、離婚を言い渡されてしまう危機的状況に陥った。
そして、AV出演歴の発覚直後である5月24日、野崎氏は急性覚醒剤中毒死でこの世を去ったのだった。結婚からわずか105日後のことだった。
裁判
2018年6月6日、和歌山県警が死因を「急性覚せい剤中毒」と発表した。
2021年4月28日、和歌山県警が殺人と覚せい剤取締法違反の疑いで須藤を逮捕し、その後、和歌山地検が両罪で起訴。
2024年9月12日、和歌山県地裁で須藤早貴被告(28歳)の裁判員裁判の初公判が行われた。須藤被告は「私は社長を殺していません」と述べ、無罪を主張した。
検察側は冒頭陳述で、須藤被告は17年12月上旬、知人の紹介で野崎さんと出会い、その頃から毎月100万円を受け取っていたと説明。18年2月に結婚したが、和歌山に定住せず、東京と行き来していたため、同3月下旬、野崎さんから離婚届を渡されたとした。
その頃、「トリカブト殺人事件」「完全犯罪」などのキーワードでインターネット検索していたとし、4月7日、覚醒剤の密売サイトに記されていた連絡先に電話。致死量の3倍以上にあたる3グラム以上の覚醒剤を注文したと言及した。
さらに「資産家の野崎さんと財産目当てで結婚し、莫大な財産を得るため、殺害した」と主張した。
2024年12月12日、和歌山地方裁判所は「元妻が殺害したとするには合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡した。
裁判において、野崎さんが殺害されたのかどうか、また殺害された場合に被告が犯人といえるかが争点となった。検察側は「遺産を得るために殺害する動機があり、覚醒剤を摂取させることができたのは被告だけだ」として無期懲役を求刑した。これに対し、被告は「社長を殺していないし、覚醒剤を摂取させていない」などと無罪を主張した。
12日の判決で和歌山地方裁判所の福島恵子裁判長は「当時、野崎さんの自宅で2人きりで、覚醒剤を摂取させて殺害することは可能だったと考えられるが、摂取した時刻には幅があることなどから、実際に覚醒剤を飲ませたとまでは推認できない」と指摘した。
さらに、「野崎さんの死亡により多額の遺産を相続できるなど動機になり得る事情はあったが、『覚醒剤』や『完全犯罪』などの検索履歴についても、それ自体が殺害を計画していた行動とは言えず、野崎さんが初めて覚醒剤を使用し、誤って致死量を摂取して死亡した可能性がある」などと述べた。
そのうえで「野崎さんに覚醒剤を摂取させて殺害したとするには合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡した。
2024年12月24日、和歌山地検は元妻、須藤早貴被告(28)を無罪とした和歌山地裁判決を不服として大阪高裁に控訴した。
須藤被告が無罪確定となった場合、本件は未解決事件化もしくは事故として扱われることになるのだろうか。
続報があり次第、本記事にて追記してきます。