累犯に累犯を重ねた凶悪連続強盗殺人事件。凶悪犯に更生はあり得るのか。
2002年8月5日午後、千葉県松戸市にて発生した殺人放火事件である。犯人らはこの事件以外に、2件の殺人事件を起こしており、一連の事件は警察庁広域重指定124号に指定されている。
事件の経緯と詳細
2002年8月5日午後3時30分頃、千葉県松戸市に住むマブチモーター社長・馬渕隆一さん(当時69歳)の家から出火した。焼け跡から、妻の悦子さん(当時69歳)と長女の由香さん(当時40歳)の遺体が発見された。
自宅は、松戸市の新京電鉄常磐平駅から約1kmの完成な住宅街にあり、樹木に囲まれた白塗り洋風造り2階建ての社長宅1、2階の一部を焼く火災が発生した。
マブチモーターは、小型のモーターで世界的に圧倒的なシェアを誇る会社で、玩具から半導体製造装置に至るまで様々な分野で使用されている。現在では、全製品をアジア中心とする海外の工場で生産しており、日本にあるのは本社と研究所の機能のみである。
自宅が火事だという連絡を受けて駆けつけた馬渕社長と長男(当時43歳)は、猛火をただ見守る意外に方法はなかった。
火はすぐに消し止められたが、悦子さんは1階のソファーで、由香さんは2階のベッドで仰向けに横たわっており、それぞれ目と口には粘着テープの跡と紐で首を締められた跡があった。
また、遺体や周囲にガソリンがまかれ火がつけられており、現金数十万円と1千万円相当の貴金属がなくなっていたことが判明したため、所轄の松戸東署は殺人放火事件として捜査を開始した。
社長は事件当日、悦子さんと由香さんの好きなケーキを予約していた。食べられることがなかったケーキは、悦子さんの誕生日と重なった告別式で霊前に備えられた。
残忍な手口から当初は恨みによる犯行の見方が強かったが、現金や貴金属類がなくなっていたことから、物取りの可能性も考えられた。しかし、多額の金品が手付かずだったこともあり、恨みか金品目当てか犯人像が絞りこめないでいた。
捜査本部は、捜査を本格的に開始したが手がかりは掴めず捜査は難航した。
新たな手がかり
手がかりなく事件から3年が過ぎた2005年になって、捜査本部に匿名の情報がもたらされた。
それによると、『群馬県伊勢崎市に住む小田島鉄男(当時62歳)と同居している守田克美(当時54歳)の2人は服役中に知り合った。この2人から馬渕社長宅への強盗に加わるように誘われた』というものだった。
2人はそれぞれ監禁強盗事件、殺人事件で服役中に宮城刑務所で知り合い、資産家から金品を奪う計画を練っていた。
「10億円が手に入る」「大金が入れば、薔薇色の人生が送れる」と周囲に言い回っていたそうだ。
小田島と守田は、2005年1月18日に群馬県前橋市の老女(当時80歳)から現金7000万円を盗んだ容疑で群馬県警に逮捕されていた。そこで、捜査本部は群馬県に出向き、2人に対して事情聴取を行った。
さらに捜査本部の調査で、本件の2日前と事件当日、松戸市内の国道16号線を走行する守田の車が監視カメラに写っていたこと、事件後に他人名義のパスポートでフィリピンに渡航していたことが判明。
このため、2人をさらに厳しく追及した結果、犯行の一部を自供したため同年12月7日に千葉県警我孫子署と松戸東署の合同捜査本部は、2人を放火殺人容疑で再逮捕した。
捜査本部は、2人の取り調べでさらに別の2件の殺人事件も小田島と守田であることを断定した。
1件目は2002年9月24日、東京都目黒区の歯科医(当時71歳)を絞殺し金品など35万円相当を奪った事件、2件目は2002年11月21日、千葉県我孫子市の金券ショップ店に私服警官を装って押し入り、経営者の妻(当時65歳)を絞殺し指輪など70万円相当を奪った事件である。
このため、警察は一連の連続殺人を広域重指定124号に指定した。
いずれも老人ばかりを狙い、殺害してから金品を強奪するという残忍で計画的な犯行だった。
歯科医を殺害した理由については「電話帳の50音別職業電話帳で最初の歯科医ページに広告が掲載されていたから」という供述と、殺害現場に落ちていた広告の切り抜きの遺留品と符合した。
金品目的に4ヶ月足らずのうちに4人の命を奪う凶悪連続強盗殺人だった。
判決とその後
守田克実被告は、2006年12月19日、千葉地裁の一審で死刑判決を宣告受けた。
2008年3月3日、東京高裁で被告側控訴を棄却。
2011年11月22日、被告側上告が棄却され、死刑が確定した。
小田島鉄男の弁護側は「主犯格とした点などで一審の事実認定に誤りがある」と控訴し、2008年1月に初公判が行われる予定だったが、2007年11月1日付で小田島被告が控訴を取り下げ、死刑が確定。
2017年17日、小田島死刑囚(当時74歳)は食道癌のため、16日深夜に東京拘置所で死亡した。同年1月に、喉の違和感を訴え検査で食道癌と判明。本人の意思で、拘置所内で症状を緩和する治療を続けていたという。
馬渕社長は、受刑者の自立支援を求める再販防止策を法務大臣宛に提言。社会復帰のために勉強や職業訓練を刑務所で行うように訴えた。
また、妻子の命を奪われた自宅は取り壊し、跡地を市に寄贈。現在は防犯・防災拠点施設が立てられている。
補足:練馬3億円事件など
小田島被告は1990年、2人組で東京都内の社長一家7人を2日間にわたり監禁し、現金3億円と貴金属を奪った。(練馬3億円事件)
約3ヶ月後に香港から帰国したところを逮捕され、懲役12年の実刑判決を受け、2006年6月に仮出所していた。
守田被告はタイ人女性殺人事件で懲役12年の判決を受け、1989年に入所していた。
マブチ事件では、遺族らが事件から2年目の2004年8月、有力情報車に1000万円の謝礼金を送ると発表。
そこから2人を名指しした情報が捜査本部に寄せられていた。遺族らは、容疑者2人の逮捕に繋がる有力情報を提供した男性4人に謝礼金1000万円を支払った。