事件・事故

静岡・LINEブロック女子大生殺害事件(沼津女子大生ストーカー殺人事件)

「LINEをブロックされたから殺した」20歳の男が同じ大学に通う女子大生を殺害

2020年6月27日、静岡県沼津市の路上で女子大学生が刃物で刺され殺害された事件で、逮捕された同じ大学の20歳の男が、「LINEをブロックされたから殺した」などと供述した。

検察は刑事責任能力を調べるため「鑑定留置」を請求し、精神鑑定が行われることとなった。

事件の経緯と動機

2020年6月27日午後1時20分ごろ、土曜の白昼、海岸とミカン畑が広がる静かな集落で突然、「助けてください、助けてください」という女性の叫び声が何度も響き渡った。

沼津市西浦久連の路上で「男が女性を刺したようだ」と近隣住民から110番があった。現場はJR沼津駅から南に約10kmの住宅地。

近所に住む70代男性によると「『助けてください』と大きな声が聞こえたので家の中から外を見たら、路上で女性が倒れていた。その横には若い男がしゃがみ込んでいた」とのこと。

沼津署員が駆け付けたところ、近くに住む大学生の山田未来さん(19)が倒れているのを発見。病院に救急搬送されたが、約2時間後に死亡が確認された。駿東伊豆消防本部によると、救急隊の到着時はすでに女性の意識はなかったという。同署は殺人未遂の疑いで現場にいた男・堀藍容疑者(20)を現行犯逮捕した。

2人は三島市の日本大学国際関係学部の同じ学年で、知り合いだった。現場近くに住む70代の男性によりますと、事件が起きる15分ほど前、紺色のような服を着た男が、山田さんの家の近くの塀に寄りかかり、スマートフォンの画面を見ながらうつむいて立っていたということで、堀容疑者は、山田さんが帰宅する前から付近で待ち伏せをしていたとみられる。

男性は「まるで、こちらに気付かれたくないかのように、ごまかすようなしぐさだった。その後、山田さんの家とは反対の海のほうへ歩いて行く姿も見た。思い返すと、不審な動きをしていたと思う」と話した。

女性はコンビニ店でアルバイトをしており、この日も事件に巻き込まれるわずか20分ほど前の午後1時ごろまで働いていた。店のオーナーは「明るくて一生懸命働いてくれていた。最近は車の免許を取るために頑張っていたのに」と言葉を詰まらせた。近所の主婦(55)も「こんな平和な場所で事件が起きるなんて。一家はみんないい人。恨まれるようなことは何一つない」と肩を震わせた。

2020年6月27日、沼津市の路上で近くに住む山田未来さん(19)が刃物で刺されて死亡した事件で、同じ大学に通う三島市の大学生、堀藍容疑者(20)が、殺人未遂の疑いで逮捕され、殺人の容疑に切り替えられて送検された。

警察の調べに対し、「山田さんにLINEをブロックされたから殺した。刃物を購入して山田さんの車や自宅を特定して待ち伏せした」などと供述。

堀容疑者は、1年ほど前からLINEで山田さんを何度も食事に誘っていたが、断られていた。

女性の父は同日、静岡県警を通じて「いまだ心の整理がつかない状態であり、非常に戸惑い混乱しているところです」とのコメントを発表した。

沼津署へ相談、事件の兆候

LINE地獄の始まり

静岡県沼津市の路上で近くに住む女子大学生山田未来さん(19)が刃物で刺され死亡した事件で、沼津署は二十九日、山田さんが一月、同署に相談をしていたと明らかにした。事件では殺人未遂容疑で男が現行犯逮捕された。沼津署は「プライバシーを考慮し相談内容は明かせない。男の名前は出ていなかった」としているが、事件との関連を捜査する。

中日新聞web 2020年6月30日 05時00分 (6月30日 05時01分更新)

検察側冒頭陳述や証拠から明らかになった時系列によると、堀被告は2019年4月に三島市の大学に進学した。山田さんも同じ学部の同級生であったが、学科は異なっていた。7月、学内で山田さんを見かけて好意を抱いた被告は、10月までに繰り返し山田さんに「LINEのIDを教えて」と迫った。

当初は断っていた山田さんだが、被告の度重なる要求に最終的には断りきれずIDを教えた。ここから被告によるLINE地獄が始まった。やりとりを始めるとすぐに、被告は山田さんを名前で呼び捨てにし、頻繁に食事に誘い始めたのである。

「来週にでも未来と一緒にご飯行きたいと思ってるけどどう?」
「テスト終わったらさ、一緒にご飯行ってくれませんか」
「今月は空いてる日ある?」
「明日ラーメン食べに行くけど、もし時間があったら一緒にいかが」

山田さんは「友達の家に遊びに行くことになってて、ごめんね、ちょっと厳しいかも」「あしたはバイト入れちゃっててごめんね」などと、毎回断っていた。しかし被告はLINEを送り続けた。

2019年10月から事件を起こす2020年6月までの間に合計789回のやりとりがなされたが、そのうち被告からのLINE送信は551回に及んだ。

そのなかで「いままで付き合った彼氏とかいるの?」「恋愛したいとか思ってる?今は特に好きな人いないって感じかな」など、プライベートに踏み込もうとする質問が繰り返された。

山田さんはこのことを友人に相談した際に「できるならブロックしたい、でも逆上して何されるか分からなくて怖い。返信が遅いと『遅い』と言われる。遅れた理由を丁寧に説明すると『そうだったんだ、ごめんね』と言うけど、再び怒り出す」と打ち明けていた。

無言電話

2019年12月頃から、山田さんの電話に公衆電話から無言電話がかかるようになった。応答すると相手は「マクドナルドに名前と電話番号と『電話してください』と書いてあった」と言った。

また、SNS上の質問箱に山田さんの携帯電話番号が書き込まれる事態も発生した。被告について度々相談を受けていた山田さんの母は「これも堀くんのせいなんじゃない?」と尋ねたが、山田さんは「しっかりした証拠があるわけじゃない。はっきりした証拠がないのに疑いたくない」と答えたという。

堀が事件を起こし逮捕された後、これらの嫌がらせ行為も被告の仕業だったと判明した。しかし当時、山田さんは堀を犯人扱いせず、警察に相談した際も「好意を持ってくれてる男の子がいる」と話すだけで、堀の名前は出さなかった。堀は山田さんの電話番号を入手するため、彼女が所属していた部活の部室に忍び込み、名簿をスマホで撮影していたのである。

2020年4月、山田さんはLINEで明確な拒絶の意思を示した。

「ごめんね、たくさんLINEしてきてくれてるけど、好きじゃないんだ。他の人とLINEしたほうがもっと楽しいと思う」

しかし堀は引き下がる様子を見せず、「前にLINE続けてくれるって言ったじゃん。それに俺は未来のことが好きだし、好きな人とLINEしてるの一番楽しいから、そう言われても無理」と、山田さんの拒絶を受け入れようとしなかった。相変わらずLINEを送り続け、「一緒にインスタライブやらない?」と誘いの言葉を投げかけたが、断られ続けた。

そして事件の数日前、LINEをブロックされた。堀被告はこの時に殺意を抱いたとされている。

犯行の計画性

しかし、実生活において被告は、それ以前から山田さん殺害の準備を進めていた。

2020年2月には、凶器として用いる包丁をホームセンターで購入していた。犯行直前にはAmazonでサバイバルナイフも入手し、これまでのLINEで得た断片的な情報から山田さんのアルバイト先、自宅、そして車を特定していた。

自室では「練習」と称し、ナイフと包丁を手に段ボールを山田さんに見立てて突き刺す行為を繰り返していた。逮捕後、被告の部屋からは壁に吊るされた穴だらけの段ボール紙や、ロフト上に置かれたボロボロの段ボール箱が発見された。

被告の部屋から見つかったノートには、愛情を超えた憎しみの言葉がびっしりと書き殴られていた。

未来を殺したい
死ね死ね死ね
殺す殺す殺す
未来は俺を見下している
うざい
俺が見えてないみたいな行動しやがって
未来に未来なんかない
死だよ
殺される運命が待ってるんだよ

殺害当日の2020年6月23日、山田さんは朝から車でコンビニのアルバイトに向かった。堀被告は山田さんの自宅近辺で帰宅を待ち伏せしていた。13時に勤務を終え、車で自宅に戻った山田さんが運転席ドアを開けた瞬間、堀被告は手にした包丁で襲いかかった。

車内でもみ合いになる中、山田さんは一度包丁を奪い取り、車から逃げ出して近所の家の戸を叩いて助けを求めた。しかし、その間に被告に捕まり、包丁を奪い返された。段ボールで練習していたように、被告は山田さんの腹部、背部、頸部を何度も突き刺して殺害した。凶器に使った包丁は鶏肉解体用の業務用のものだった。

解剖医は以下のように証言している。
「女性には致命傷となる傷が多数あり、いくら救命が早くても出血多量による死は絶対的に免れない状況だった。傷は柔らかい部位に集中しており、急所を狙って刺したことは明白。これだけ急所を多く刺しているということは、その最中に女性は意識を喪失したことが推定され、完全に事切れるまで刺し続け、事切れたのを確認して行為を止めたと推定される」

山田さんの遺体には、49箇所もの傷が確認された。残忍な犯行が証拠で明らかになるたび、法廷は静まり返った。また嗚咽のような声や鼻をすする音が響くこともあったが、被告は大型モニターに映る証拠をしっかりと見つめ、終始無表情で落ち着いていた。

その後

静岡地方検察庁沼津支部は、動機が極端で一方的に執着する様子がうかがえることなどから、専門家による精神鑑定を行って刑事責任能力を調べるため、裁判所に「鑑定留置」を請求した。

期間は、7月9日からおよそ3か月間の見通しで、検察は、精神鑑定の結果などを踏まえて起訴するかどうか、判断するものとみられた。

最終的に、約4か月の鑑定留置を経て、殺人やストーカー規制法違反(ストーカー行為)などの罪で起訴された。

2021年7月5日、静岡地裁沼津支部(菱田泰信裁判長)の裁判員裁判初公判で、堀は「間違いありません」と起訴内容を認めた。

検察側は山田さんと堀被告の関係について「他人同然で、理不尽に殺害されたに等しい」と主張。刺し傷などが49カ所にのぼったことに触れ、「殺害をちゅうちょした形跡もない」として無期懲役を求刑した。

一方、弁護側は起訴内容を認めた上で「被告人は事件当時20歳で恋愛経験が少なく未熟さによる犯行だった」と訴えた。

2021年7月13日、静岡地裁沼津支部で行われた裁判員裁判において、菱田泰信裁判長は懲役20年(求刑無期懲役)を言い渡した。

判決で菱田裁判長は「LINEなどのやりとりからストーカー殺人と判断するのが妥当」とした上で、「助けを求めて逃走する山田さんを追いかけて引き倒した上、死亡を確認するまで腹部などを多数回突き刺すなどし、致命傷となる傷が複数あった」と指摘。「犯行は執拗(しつよう)で残忍というほかなく、殺意もきわめて強固」などと量刑の理由を述べた。

この判決を不服として地検沼津支部は27日付けで東京高裁に控訴した。

2023年3月15日、東京高裁は控訴審判決で懲役20年とした裁判員裁判の1審静岡地裁沼津支部判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。

控訴審で検察側は、他のストーカー殺人事件の量刑傾向を示し「無期懲役が相当」と主張した。しかし、安東章裁判長は、検察側が示したのは被害者が2人のケースなどで「悪質性が異なる」と指摘。「理不尽な逆恨みで、犯行態様は残忍。被害者の無念は計り知れない」とした1審の判断に「基本的に誤りはない」と結論付けた。

2023年3月29日、東京高検は上告しないことを明らかにし「判決内容を十分に検討したが、適切な上告理由が見いだせなかった」ためとコメントを出した。

これによって堀の懲役20年が確定した。

遺族側は、「最愛の娘を殺されて懲役20年ということには到底、納得いかない。上告を断念した判断はとても残念です」とコメントしている。

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