「はいおわりー」ドライブレコーダーに残された証拠で故意を認められ、懲役16年の殺人罪適用に。
2018年7月2日夜、堺市南区の大阪府道で車を運転中、大学4年の高田拓海さん(当時22)=堺市西区=運転の大型バイクに車の前方に入られたことに立腹。元警備員の中村精寛(あきひろ)被告(40)は、高田さんを死亡させるかもしれないと認識しつつ、故意にバイクに衝突した。
検察側は論告で、元警備員の中村精寛(あきひろ)被告(40)が昨年7月2日夜に車を運転中、大学4年の高田拓海さん(当時22)運転の大型バイクに前に入られたことに立腹して猛スピードで追跡し、回避も試みずに故意に衝突したと主張。「まれにみる殺人運転」などと述べた。
最終的に「煽り運転」で「殺人罪」が適用された、稀なケースとなった。
事件の経緯と動機
堺市南区茶山台2丁の警備員、中村精寛(あきひろ)容疑者(40)が逮捕された。
交通捜査課がドライブレコーダーなどを解析すると、大学生の高田拓海(たくみ)さん(22)運転のバイクが中村容疑者の車を追い抜いた直後から、中村容疑者が約1キロ、時間にして約1分間ほかの車両の間をすり抜けるようにしてクラクションやパッシング、急接近を繰り返す様子が映っていた。
また車間距離を広げようとしたのか、バイクが速度を上げると、中村容疑者の車はさらに速度を上げて追いかけていたという。
被告は昨年7月2日午後7時35分ごろ、大学4年の高田拓海さん(当時22)運転のバイクにパッシングなどを繰り返した行為について、「バイクが突然前方に現れたので危険を感じ、僕の存在を知らしめるためにやった」と説明。
高田さんが車線変更しても加速して追跡したとする検察側主張には「妻を迎えに行くために(妻の勤め先がある方向へ)車線変更した。バイクへの意識はなかった」とし、あおり運転を否定した。
衝突後に「はい、終わりー」と言ったのは、「事故を起こして仕事ができなくなり、僕の生活が終わったと思った」と説明。警察で高田さんが亡くなったと知り、「深く後悔する気持ちになった」と述べた。
判決とその後
2019年1月15日、大阪地裁堺支部で裁判員裁判の初公判が開かれた。
検察側は被告の車のドライブレコーダーの映像を法廷で再生。堺市南区の大阪府道で昨年7月2日夜、大学4年の高田拓海さん(当時22)=同市西区=運転のバイクが前方に入ってきた後、車を加速させてパッシングをしながら追跡、衝突後に
「はい、終わりー」
と言う様子が記録されていた。 検察側は被告が故意に時速約96~97キロで車をバイクに追突・転倒させ、高田さんを殺害したと主張。
一方、被告は罪状認否で「腹を立てて追いかけ回したり、追跡したりしたことはありません」と反論。弁護側もブレーキが間に合わずに衝突したとして殺意を否定し、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)罪にとどまると訴えた。閉廷後、高田さんの母親はコメントを出し、「被告の行為を到底許すことができません」と心情を明かした。
翌16日、大阪地裁堺支部で、被告人質問が始まった。
検察側は、被告が昨年7月2日夜、大学4年の高田拓海さん(当時22)運転のバイクに自車前方に入られたことに立腹して追跡し、故意にバイクに追突して高田さんを殺害したと主張。一方、弁護側は被告はバイクに腹を立てたことはなく、前方に現れたバイクにブレーキが間に合わず衝突したと殺意を否定している。
この日の公判で、被告は当日午後6時ごろに仕事を終えて会社近くの立ち飲み屋で生ビール2杯を飲み、午後7時10分ごろに妻を勤務先まで迎えに行くため、会社の駐車場に止めていた車で出発したと述べた。
被告人質問に先立って被告の妻の証人尋問もあり、妻は逮捕・勾留された被告と面会した際、被告が「取り返しがつかないことをした。申し訳ない」と話したと証言。被告の日常の運転について「少し危ない面がありブレーキを踏むのが遅い癖があったと思う」と述べた。
2019年1月17日、大阪地裁堺支部(安永武央裁判長)で、裁判員裁判の第3回公判が開かれた。
検察側は、被告が昨年7月2日午後7時35分ごろに乗用車を運転中、大学4年の高田拓海さん(当時22)=同市西区=運転の大型バイクに追い抜かれたことに腹を立てて追跡し、故意に追突・転倒させたと主張。論告では車のドライブレコーダー映像を再生し、衝突が確実と認識していたのに回避を試みておらず、殺意は明らかだとした。その上で、「まれにみる殺人運転で、将来がある若い被害者を死亡させた」と非難した。
弁護側は最終弁論で、高田さんの運転に腹を立てたことはなく、バイクに気づいてブレーキをかけたが間に合わずに衝突したとして改めて殺意を否定した。
論告求刑と最終弁論に先立ち、高田さんの母親(45)が意見陳述し、「一生許すことはできません」と訴えた。検察側が懲役18年を求刑し、被告側は「過失」と訴えて結審した。
懲役16年、殺人罪を適用。
起訴内容は昨年7月2日夜に車を運転中、大学4年の高田拓海さん(当時22)=堺市西区=運転の大型バイクに車の前方に入られたことに立腹。高田さんを死亡させるかもしれないと認識しつつ、故意にバイクに衝突したというもの。公判では被告の殺意が争点となったが、判決は殺意を認定した。
検察側は論告で、被告が車を加速させて猛スピードでバイクを追跡し、回避を試みずに衝突したとして殺意は明らかだと主張。「まれにみる殺人運転」で「あおり運転や交通トラブルが後を絶たない現状の中で、厳しい処罰を社会が求めている」としていた。
一方、弁護側は被告が高田さんの運転に腹を立てたことはないとして、あおり運転を否定。追突についても「衝突の1秒前にバイクに気づいてブレーキをかけたが、間に合わずに衝突した」として過失による事故だったと主張し、殺意を否定していた。
1月25日の裁判員裁判の判決では、大阪地裁堺支部であった。安永武央裁判長は殺人罪を適用し、懲役16年(求刑懲役18年)を言い渡した。
判決は殺意の有無について、被告の車のドライブレコーダー映像などをふまえて検討。被告がクラクションやパッシングを繰り返し、高田さんと同様に第1車線から第3車線まで車線変更したことについて「怒りに基づく威嚇や追跡」と指摘。衝突後に被告が「はい、終わりー」と言った点も、その口調から「衝突してもかまわないという気持ちが表れている」と判断した。
弁護側は「ブレーキをかけたが間に合わなかった」と殺意を否定し、過失だと主張していたが、判決はブレーキは不十分だったなどとして退けた。その上で、けんかの末の殺人と比較。被告がささいなことから勝手に怒りを募らせている点と被害者に落ち度がない点から、「より重い刑罰がふさわしい」と結論づけた。
2019年2月4日、判決は不服として、弁護側が控訴した。
2019年9月11日、大阪高裁で、控訴審判決が行われた。樋口裕晃裁判長は、懲役16年とした今年1月の一審・大阪地裁堺支部判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。
高裁判決は、被告の車のドライブレコーダー映像に被告がクラクションやパッシングを繰り返したり、衝突後に被告が「はい、終わりー」と言ったりしたことが記録されていたことなどから、被告に被害者が死んでも構わないという気持ちがあったとして、一審判決と同様に殺意を認めた。
高田さんの母親(46)が意見陳述し、「拓海が亡くなって1年、今も時間が止まっている。被告人は私たちの苦しみなど分かろうとすらしていない」と訴えていた。
母親は判決を傍聴した後に会見。判決について「拓海がとてもひどいことをされ、とても痛い思いをしたんだと改めて思いました」と語り、「ただ拓海に会いたくて、毎日つらい」と涙ながらに話した。
2020年7月31日、殺人罪に問われた無職中村精寛(あきひろ)被告(42)の上告審で、最高裁第二小法廷(三浦守裁判長)は被告側の上告を棄却した。決定は7月31日付。殺人罪の成立を認め、懲役16年(求刑懲役18年)とした一審・大阪地裁堺支部判決が確定した。
あおり運転をめぐり、殺人罪を適用した裁判が確定するのは異例のことであった。