誤認逮捕で”被害者”が死亡した未解決事件
2004年2月17日に三重県四日市市で発生した誤認逮捕および冤罪事件。
若い女に泥棒扱いされ、犯人だとされた68歳の男性が、警察官の拘束後に死亡し、その死因が「高度のストレスによる高血圧性心不全と不整脈」と発表された。
死亡した男性が犯人であるとした女はその後逃走しており、翌18日には被疑者死亡のまま、男性が書類送検された。
しかし、その後の捜査で、男性と女が奪い合っていた財布が男性の所有物であったと判明し、誤認逮捕であったことが明らかとなった。
三重県警は虚偽告訴罪で被疑者の特定に向けて捜査を継続し、2005年に現場の監視カメラに映っていた、犯人の顔の画像を含む、犯行現場の映像が公開されたが、特定には至らなかった。
なお、容疑事実を特定できないままでの映像公開は、グリコ・森永事件以来となる異例の措置であった。
その後、2011年2月17日、窃盗未遂事件について時効が成立し、未解決事件となった。
事件の経緯
2004年2月17日、事件は、四日市市のジャスコ四日市尾平ショッピングセンター(現:イオン四日市尾平ショッピングセンター)にあるATMコーナーで発生した。
女は、男性がATMを操作している最中に、ATMコーナーに入ってきた。このとき、女は子どもを前に抱えた状態であった。
男性がATMの操作を終え、両手に買い物袋を持ってATMコーナーを出ようとしたところで、女は男性の肩にぶつかっていき、身体を触るような仕草を始めた。
当然、男性は抵抗したため、女が男性の胸倉を掴みかかる形で、二人は揉み合う形となった。
女が「泥棒!」と叫んだため、近くにいた客や店員ら計3名がATMコーナーへ入り、男性を取り押さえた。
男性が取り押さえられた後、女はその場を立ち去り、間もなくして、別件の万引き事件の処理で居合わせた四日市南警察署の警察官2名が現場に到着。
男性警察官(29歳)は、男性を後ろ手に手錠をかけた状態で、20分間うつ伏せに押さえつけた。
この間に男性は意識を失い、嘔吐もしていたが、警察官は拘束を続けた。
その後、通報を受けて駆けつけた応援の警察官が現場に到着。男性は意識を失っており、また、嘔吐した形跡があったため、拘束を解いて救急車で病院に搬送した。
しかし、その段階で既に男性は脳に回復不能な損傷を受けており、翌18日、男性の死亡が確認された。
男性が最期まで護るように握り締めていたキャッシュカードは、3つに折れ曲がり、眼鏡も片方のレンズが壊れていたが、これらは2005年2月27日に、遺族に返却されている。
その後
事件翌日となる2004年2月18日、三重県警察は、被疑者死亡のまま男性を書類送検した。
しかし、翌3月に、男性と女が奪い合いになっていた財布は死亡した男性の所有物だったことが判明し、本件において窃盗罪自体が成立していなかったことが発覚。
また、監視カメラの映像から、男性が一切の窃盗行為をしていないことや、男性が取り押さえられる約5分前から、女がATMコーナーから3〜4m離れた位置より、ATMの方を何度もうかがっていたことなどが分かったことから、三重県警察は虚偽告訴罪の被疑者として女の捜索を開始。
同年5月11日、津地方検察庁は、男性の無実を認め、被疑者補償として1日分の最高額である12,500円を遺族に支払うと通知した。
そして、翌2005年2月19日には、現場の監視カメラの映像が公開されたが、2020年4月現在に至るまで、女は特定されておらず、2011年2月17日、窃盗未遂罪について公訴時効が成立し、未解決事件となった。
誤認逮捕での男性死亡に対する民事訴訟
2007年、男性の遺族が、警察官の度を超えた対応により男性が死亡したとして、三重県を相手取り、約5,700万円の損害賠償訴訟を起こしたが、対する三重県側は、「対応は適切だった」として争う姿勢を示した。
また、四日市南警察署は当初、逮捕拘束について「一般的な制圧行動だった」と発表したが、その後、誤認逮捕であったことについては認めている。
2010年11月18日、津地方裁判所は原告の訴えを一部認め、880万円の支払いを命じる判決を出した。判決で、堀内照美裁判長は、「制圧行為は必要かつ相当な限度を超え、違法」として制圧行為の違法性を認めたが、死亡との因果関係は認めなかった。これに対し、遺族側は同11月27日に控訴。
2011年9月10日、名古屋高等裁判所は、第二審となる控訴審判決で、死亡との因果関係を認めなかった一審判決を変更し、三重県に対し約3,644万円の支払いを命じた。
2011年9月13日、重県側が上告を断念し、判決が確定した。