六本木の外国人ホステスをターゲットに、薬物を使用して強姦。準強姦致死罪は認められず、無期刑に。
ルーシー・ブラックマンさん事件とは、2000年7月に神奈川県逗子市でイギリス人女性ルーシー・ブラックマン (Lucie Blackman)さんが強姦されて死亡した事件。
犯行の経緯や動機
2000年7月1日、元英国航空乗務員で、ホステスとして六本木で働いていたルーシーさんが、友人に連絡後に行方不明になった。
3日には、男からルーシーさんの友人に電話があり、不審に思った友人が警察に捜索願を出したことで「失踪事件」が発覚。
同居していたルーシーさんの友人女性の証言によると、ルーシーさんは勤務先の六本木の外国人クラブの客とデートに行ったのを最後に、姿を消していたという。
ルーシーさんが失跡した直後の7月5日ごろ、被疑者がこのマンションを訪れて管理人とトラブルになっているところや、スコップを持って海岸を歩いているのが目撃されていた。
7月13日、警察はルーシーさん失踪事件の公開捜査に踏み切った。
その直後、警察にルーシーさん本人を名乗る手紙が届けられ「自分の意思なので、そっとしておいてほしい」という内容だったが、筆跡鑑定で別人のものであると判明。
事件はイギリスでも話題となり、沖縄サミットで訪日したブレア首相(当時)が、森首相(当時)との会談で直接、事件解決を要請した。
8月22日、ルーシーさんの妹が記者会見し、1万ポンド(当時1600万円)の懸賞金をかけて有力情報の呼びかけを行うとともに、専用ダイヤルを設けて情報提供を呼び掛けた。
9月中旬、外国人クラブの元ホステスから「日本人の男性客に海辺のマンションに連れていかれ、薬を飲まされて乱暴された」との証言が寄せられたことで、容疑者として織原城二(48歳)が捜査線上に浮上。
織原(元在日韓国人、金聖鐘(キム・スンジョン))は父親の遺産を相続し、田園調布に別荘をもつ資産家で、六本木で派手に豪遊していることで知られている人物であった。
その後、神奈川県逗子のマンションに外国人ホステスを連れ込んでは、睡眠薬を飲ませて強姦していたことも明らかとなった。
9月下旬には、警視庁刑事部捜査第一課と麻布警察署が被害者が勤めていたクラブの常連客で不動産管理会社社長の男を捜査していることが公開された。
また、ルーシーさんの周辺で新たに外国人女性二人が行方不明になっていることも発覚した。
10月12日、別件の準強制わいせつ容疑で織原が逮捕された。
後日、神奈川県三浦市内の所有するマンションの一室やモーターボート付近の海岸などを警察が捜索した。
その結果、織原の自宅マンションから、強姦シーンを録画したビデオや薬物が大量に発見され、さらに、セメントや電動ノコギリなども見つかった。
しかし、織原は完全黙秘を貫いたため、警察は新たな証拠を求め、織原のマンション周辺をローラー捜査した。
11月17日、織原が再逮捕された。東京地方検察庁は同日、ルーシーさんに対する準強姦罪で織原を東京地方裁判所に起訴した。
警視庁はDNA鑑定のため、ルーシーさんの家族に毛髪の提供を要請した。
2001年1月26日、オーストラリア人女性に対する強姦致死容疑で再逮捕された。
そして、2001年2月9日、織原のマンションから近い神奈川県三浦市内の海岸にある洞窟内で、地面に埋められた浴槽内で遺体がバラバラに切断された状態で発見された。なお、頭部はセメントで固められた状態であった。
発見された場所は、織原のマンションのすぐ裏手にあり、歩いて2分足らずの場所であった。
判決とその後
その後、織原はルーシーさんを含めた10人の女性(日本人4人と外国人6人)に準強姦をし、そのうち2人の女性(ルーシーさんとオーストラリア人女性)を死亡させたとして東京地検から東京地裁に起訴された。審理は2000年12月の初公判から2007年4月の判決まで61回に及んだ。
被疑者は他9事件については1人の致死罪を除いておおむね認めた。
しかし、ルーシーさん殺害事件については、検察側が死亡したとする時間の直前に自分のマンションの部屋でルーシーさんと会ったことは認めたが、裁判時には死亡していた知人が関与した可能性を示唆した上で無罪を主張した。
東京地検は織原が失踪前のルーシーさんと行動していた点・遺体を固めるのに使用されたものと同種のセメントが織原の部屋から発見された点などの状況証拠を積み重ねて有罪を主張し、法定刑の上限の無期懲役を求刑した。
2007年7月24日に開かれた判決公判で東京地裁(栃木力裁判長)は織原に無期懲役を言い渡した。
東京地裁はルーシーさん以外の女性9人に対する準強姦致死罪などを事実認定したが、ルーシーさんの件に関しては「合理的疑いが残る」として無罪を言い渡した。
東京地検・被告人ともに判決を不服として東京高裁に控訴した。
2008年3月25日、控訴審初公判で弁護側は、当事件の被害者に関する全ての罪とオーストラリア人の致死罪に関して無罪を主張した。検察側は、有罪を求めた。
2008年7月、一審で致死罪が認定されたオーストラリア人女性の遺族に、織原が見舞金1億円を支払っていたことが明らかになった。織原はこの見舞金を「お悔やみ金」として、女性に対する殺害は関係ないと主張した。
2008年12月16日、控訴審判決公判にて東京高裁(門野博裁判長)は第一審判決を破棄した上で織原に改めて無期懲役判決を言い渡した。
東京高裁はルーシーさん殺害事件について準強姦致死罪を認めなかったがわいせつ目的誘拐・準強姦未遂・死体損壊・死体遺棄の各罪を有罪と認定した。
被告人・弁護人側は、ともに判決を不服として最高裁に上告した。
2010年12月7日付で最高裁第一小法廷(桜井龍子裁判長)は控訴審・無期懲役判決を支持して織原の上告を棄却する決定をしたため無期懲役が確定した。
2015年4月22日には、本事件を取り上げた書籍『黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実』が刊行されている。