社会問題

一時保護・連れ去りという名の「脱法的」虐待

児童虐待とは

2018年(平成30)年8月30日に厚生労働省は、平成29年度中に全国の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数が13万3778件で、これまでで最多の件数であったと発表した。

統計を取り始めた平成2年度から27年連続で過去最多を更新している状況である。

これは各地の児童相談所が、住民や警察などからの通報や相談を受けて、18歳未満の子どもに対する虐待と判断して対応した件数である。

1990年代に子ども虐待が問題となり、2000(平成12)年には「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」が制定された。

では、そもそも児童虐待とは何か。

児童虐待の定義は、児童虐待防止法によると以下のように定められている。

この法律において「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するもの)が、その監護する児童(18歳未満の者)について行う次に掲げる次の行為をいう。

一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待の定義)より抜粋

一つ目は、児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えることである。

これは身体的虐待であり、殴る、叩く、蹴る、熱湯をかける、煙草の火を押しつける、寒い日に戸外へ出す、高いところから落とす、体を縛りつける、布団巻きにする、狭いところに押し込める、怪我をするような行動をさせるなどの行為が該当する。

二つ目は、自動にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせることである。

これは性的虐待であり、性的な行為の他に、子供に性的な行為を見せる、ポルノ写真や映像を見せる、子どもの裸を写真に撮るなどが含まれる。

三つ目は、児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者としての監護を著しく怠ることである。これはネグレクト(保護の怠慢・育児放棄)であり、病気になっても医者に診せない、食事を与えない、汚れたままできれいにしてあげない、学校に行かせないなどである。

四つ目は、自動に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な反応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力、その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うことである。

これは心理的虐待であり、バカ、死ね、あなたはいらない、生まれてこなければよかったのになどの暴言や、子どもに関心を示さない無視、子どもの面前で夫婦間の暴力などにより、子どもの心を傷つけることが該当する。

次の章では、このような児童虐待の現状について詳しく述べる。

ブラックボックス化している児童虐待の現状

今日、毎日のようにニュースで子どもの虐待事件が報道されている。

父親が虐待しているケース、母親が虐待しているケース、両親が虐待しているケースなど状況は様々である。

厚生労働省の調査では、平成29年度の児童相談所における児童虐待の全相談対応件数のうち、心理的虐待が54.0%、身体的虐待は24.8%、ネグレクトが20.0%、性的虐待が1.2%であった。

しかし、性的虐待、心理的虐待は表面に出ないことも多く、正確な実態把握は難しい。

また、平成28年度の児童相談所における児童虐待の相談対応件数のうち、主な虐待者は実母が48.5%、実父が38.9%、継父等が6.2%、継母等が0.8%であり、実母の割合が最も高い。

また、虐待を受けた子どもは、小学生が最も多く34.0%、3歳から学齢前が25.6%、3歳児未満が19.5%、中学生が14.2%、高校生等が6.7%であった。

虐待を受けた子どものうち79.1%を小学生以下が占めていることは、手のかかる時期の支援の必要性を示していると思われる。

虐待は子どもにとってマイナスの経験である。

ネグレクトは必要な体験を奪うものであり、育ちに必要な適切な経験が不足し、間違った考えや行動を学ぶことがある。

暴力を受けた子どもは、暴力で物事を解決することを身につけ、話し合いをする前に手が出てしまうことが多い。

無視された子どもは、他人との関係で思うようにならないと相手を無視することが多い。

そして、性的な虐待を受けた子どもは、他の子どもへの性的な問題を引き起こしやすい。

適切に教えられていないことは適切にできないため、年齢に応じて一般的にできると思われる社会常識や身の回りの自立などで失敗することが多い。

その結果、その人の人格形成や適切な信頼関係の構築に大きな悪影響を与える。

実際、小学校高学年から高校生までの女子が引き起こす万引き、夜間徘徊、喫煙、飲酒、無断外泊などの逸脱行動の背景には、性的虐待があることが専門的な支援の場面でよく見られる。

性は基本的な人間の尊厳につながり、それを侵害されたことにより自暴自棄となるような行動に走りやすくなる。

強要される性的暴力は、その子どもが信頼関係を築く大切な過程を妨害するため、将来に安定した家庭を築くことを困難にする場合も多い。

では、児童虐待に関する相談を受けたり、虐待された児童を一時保護したりする施設である児童相談所はどのような施設なのかについて、次の章で説明する。

児童相談所と一時保護の現状

児童相談所は、児童に関するさまざまな問題の相談に応じるとともに、調査・判定を行い、それに基づき必要な指導を行う場所である。

また、必要に応じて児童の一時保護も行う。

道府県や政令市などが設けており、虐待だけでなく、子どもの発育に関する相談や、障害、非行、不登校などの相談・支援にも対応している。

児童虐待の通報や相談は「189」で最寄りの児童相談所につながる。

ちなみに、全国に210カ所ある児童相談所が2016年度に対応した児童虐待相談は、12万2575件だった。

しかし、関東地方のある児相の職員は、「日々、悲惨な事案に触れることで感覚が麻痺している職員や、バーンアウトしてしまった職員もいます。着任した途端に数十件を超える事案を引き継ぐので、まるでロボットのように処理している人もいます」と児童相談所職員の現状を明かす。

都内の児相で19年間働き、退職後の2016年、『告発 児童相談所が子供を殺す』を書いた山脇由貴子さんは、「職員を増やせばどうにかなる問題ではないと、みんな気づき始めています」とも話す。

この児童相談所以上に実態が知られていないのが、一時保護所である。

一時保護とは、児童相談所が子どもを家庭などから引き離し、原則2カ月まで、一時保護所などで保護することである。

虐待を受けたり家出したりして、生命や身体に危険が及ぶおそれがある子どもが対象であり、児童相談所が独自の判断で執行できる行政処分である。

現在の厚生労働省の「児童相談所運営指針」では、緊急の場合を除いて原則、子どもや保護者の同意を得る必要があるとされている。

一時保護所は虐待、置き去り、非行などの理由によって子どもを一時的に保護するための施設で、全国210の児童相談所のうち136カ所に一時保護所が併設されている。

認定NPO法人Living in Peaceを創設した慎泰俊さんは、約10カ所の一時保護所を訪問し、2カ所に住み込んで目の当たりにした実態を、『ルポ児童相談所 一時保護所から考える子ども支援』に記した。

一時保護所にいた子どもたちの話や現場の環境から、慎さんは「保護所間格差」が大きいことを知る。

一部の一時保護所では、規律が厳しく、職員は命令口調で子どもに指示する。

窓は開かず、部屋は外鍵。

これは、虐待を受けた子どもだけでなく、非行や精神障害をもつ子どもも保護されてくるためとされている。

性的な問題を防ぐため、会話やトイレの自由も奪われている。

また、子どもの安全を守るという理由で外出の機会はほぼなく、基本的に学校にも行けない。

子どもたちはプリントなどで自主学習をするが、習熟度に応じた内容ではないこともある。

慎さんは「一時保護によって子どもの権利が侵害されることがあります。子どもの心身に与える影響も心配です」と危惧する。

一時保護所の在所日数は原則2カ月以内とされているが、長期化している。

特に都市部で在所日数が長い傾向がある。

多くの子どもは、あと何日ここにいるのか、親元に戻れるのか、次にどこに行くのかを知らされないまま一時保護所で過ごしている。

慎さんがその理由を複数の関係者に聞いたところ、不確実な情報によって子どもが一喜一憂することを防ぐため、子ども同士のトラブルを防ぐため、などの答えだったという。

虐待を受けた子どもに罪はないにも関わらず、安全確保という理由で、親や友達、学校の先生から引き離され、自由や知る権利を制限される状況は子どもの権利を奪っているのではないかと私は思う。

慎さんは、こうした一時保護所格差が起こる背景として、児相一極集中になっている現状を「多くの地域で子どもを支えるコミュニティの力が失われた今、児相が子どもとその親の問題を一手に引き受けています。パンク状態になっている児相に、これ以上きめ細やかなケアを求めるのは難しいです」と指摘している。

またそれと同時に、児相に外部の目が届きにくい状態にもなっている。

「ある事業を一つの組織だけで見て外部の目が入らないと、都合の悪い情報は隠されがちになり、自浄作用が働かなくなっていきます。情報公開と第三者の外部監査によって実態を把握し、子どもの利益を最大化することを目的に動けているのか、チェックする必要があります」というのは、児童相談所に限られたことではないだろう。

厚生労働省によると、心中以外の虐待死は、2015年度は48例の52人であり、そのうち児相が関与していたのは16例(33.3%)と、非常に高い割合を示している。

関与とは、虐待に限らず何らかの相談を受け、児相に記録が残っていたり記録を残すべきだと判断したりしたケースを指す。

つまり、3人に1人の子どもは、何らかの形で児相につながっていたにも関わらず、命を助けることができなかったのである。

これを受け、2016年に成立した改正児童福祉法により、特別区でも「区立」の児相が設置できるようになり、世田谷区、板橋区などが設置に向けて準備を進めている。

各区の子ども家庭支援センターと連携した、きめ細やかな対応が期待されている。

一時保護された児童を親元へ返す条件

一時保護された子どもの家庭復帰は、子どもの意思を尊重しつつ、虐待の再発の危険性が認められないことと、再発を防ぐ家族周辺の援助体制のネットワークが形成されているか否かにより判断する。

その判断をする際に必要不可欠な事項について述べる。

一つ目は、保護者の発言の真相の確認である。保護者によっては、子どもを早く引き取りたいために、「仕事を見つけました」「病院に受診しました」等虚偽の発言をする場合がある。

ところが、家庭周辺の調査をすると事実と反する場合もあるので、必ず事実確認の調査を実施する。

二つ目は、保護者が子どもに対して責任ある行動をとっているかの見極めである。

子どもに「面会に来るよ」「外泊の迎えに来るね」等と約束しながら、実際には来所しない保護者もいる。

このような場合、子どもは保護者に対して絶望感と裏切られ感を持ち、心の傷を深める危険性がある。

保護者の責任ある態度と子どもの保護者に対する感情等を十分見極める必要がある。

また、一時保護を繰り返しているような場合は、特に留意が必要である。

三つ目は、面会を通じて親子関係の変化を確認することである。

通所、家庭訪問等により保護者に一定の改善が見られた場合は、親子関係再構築の作業として面会を実施することとなるが、面会前、面会中、面会後の保護者と子どもの言動等を行動観察して、子どもの心身の安全が確保されると判断できれば、家庭復帰を目指した外泊を実施する。

そして四つ目は、最終的な判断材料として外泊時の状況を把握することである。

保護者は「子どもも変わりました」、子どもは「お父さん、お母さん、優しくなった」等と、双方とも面会の一瞬を捉えて問題解決されたと錯覚することが多い。

外泊は一時保護後の親子の変化を相互に体験する機会となる。

親子関係修復のため、面会、外泊等の回数および期間を変える等、個別の事例に応じて課題内容を検討して実施する。

以上の4つが、一時保護された児童を親元へ返すための条件である。

しかし、前述の通り、自浄作用に欠ける児童相談所の「行き過ぎた権利の濫用」によって、これらの条件が「子どもを返さない」言い訳に使われる場合が非常に多い。

児童相談所にとってみれば、「保護された子ども」は、金を生む「金の卵」だという見方もできるためである。

そうした場合、証拠もなく、子どもやその保護者の権利を侵害する形で、無理やり子どもが「連れ去り」にあってしまうというケースが少なくない。

そしてさらに、これらのケースのほとんどが長期化し、中には数年間も適切な教育を受けたり、人とのコミュニケーションをとることができなかったりするという、悲惨な現状がある。

これらの具体的事例については、後日、また別の記事で紹介できればと思う。

職権の濫用と言われるような、いわゆる「連れ去り」の根絶を願ってやまない。

では最後に、子どもの権利が剥奪されているもう一つの例として、今日本で大きな問題となっている、もうひとつの「連れ去り」についての現状を述べる。

児相以外でも行われる「連れ去り」の現状

夫婦が離婚を決意したとき、子どもがいる場合には、「どちらが子どもの親権を持つのか」という点が問題となる。

お互いに親権を持ちたい場合には、話合いが平行線となってしまうことも少なくない。

話合いがまとまらない結果、どちらかが勝手に子どもを連れ去り別居するという強硬手段を取るケースがある。

つまり連れ去り別居とは、配偶者のどちらかが相手の合意なく、子どもを連れて勝手に別居してしまうことである。

現在の法律では、子どものいる夫婦が離婚する際には、子どもの親権者を決めることが求められている。

そのため、両親がともに子どもの親権者になりたいと希望して、話合いが平行線となっている場合、離婚届の提出はできない。

そこで強引に子どもの親権を取ろうとして、一方が連れ去り別居を強行することがある。

そこから子どもを巻き込んだ大きなトラブルへ発展してしまうのである。

もしどちらが親権を持つかが決まっても、日本で現在採用されている単独親権制度は、先に子どもを連れ去り、親権を獲得する手段として使われていて、国際社会で強く非難されているのだ。

しかしこの現状は、子どもの権利が剥奪されいるという点で法律に違反する。

なぜなら、子どもの基本的人権を国際的に保護するために定められた条約である「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」に違反しているからである。

18歳未満の児童(子ども)を権利を持つ主体と位置づけ、おとなと同様一人の人間としての人権を認めている。

その中には、子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること)が明記されている。

これは、子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、大人はその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮することを約束する内容である。

しかし子どもの連れ去りでは、子どは自分の意見は全く考慮されずに片親を失うという残酷な事態が起こっている。

このような事態に対して、まずは私たち一人一人が今の日本の現状を知ることが必要だろう。

子どもの連れ去りの問題に関しては、たとえ単独親権制度の下では違法でなかったとしても、子どもの権利条約に違反している場合が多いことを十分に理解する必要がある。

常に子どもの最善の利益を考え、子どもを取り巻く環境や地域を含めて、常に子どもを一人の人間として尊重し、子どもの立場に立って考えることが大切だろう。

また保護者は、子どもと接する上で「子育てに体罰や暴言を使わないこと」「子どもが親に恐怖を持つとSOSを伝えられないことを十分認識しておくこと」「子どもの気持ちと行動を分けて考え、育ちを応援すること」が大切だろう。

そして周りの人たちは、もし児童虐待の可能性があると少しでも感じた場合は、児童相談所に相談するなどして、いち早く対応することが求められる。

児童虐待は、社会全体で解決するべき問題である。

すべては「子どもファースト」の視点に立てるかどうか、そこにあるように思う。

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