無認可保育園における乳児事故死
2017年1月11日、高知市本町2丁目の認可外の保育施設「おひさま24時間託児所」(現在は閉所)でうつぶせに寝かされていたおよそ生後9か月の女の子が死亡するという痛ましい事故があった。
この女の子は、高知市の会社員である平山直也さんの長女の結奈ちゃんである。
結奈ちゃんの母親はその日の午前6時50分ごろに、初めて結奈ちゃんをこの託児所に預けたそうである。
7時半ごろ結奈ちゃんが泣き始めたので、当時20代の保育士の女性施設長は、布団に結奈ちゃんをうつぶせに寝かせてその場を離れた。
およそ30分後の7時55分ごろに様子を見に戻ると、結奈ちゃんは呼吸していなかったということである。
施設長は心肺蘇生を行い、結奈ちゃんは救急車で市内の病院に運ばれたが、12日の夕方に死亡が確認された。
司法解剖の結果、死因は「呼吸不全による多臓器不全」とされた。
事故当時、託児所には施設長と結奈ちゃんしかいなかった。
業務上過失致死容疑で書類送検された施設長は、市の聞き取りに対し、「インターネットで施設の利用申し込みの状況を確認するために目を離した」と話したということである。
この事件が起こった原因
なぜ、このような痛ましい事故が起こってしまったのか。
国のガイドラインに基づいて高知市が立ち上げた検証委員会が、去年5月にまとめた報告書では、「乳児の睡眠時の体位や呼吸の確認など、観察が十分でなかったと考えられる」と指摘していた。
確かに、うつぶせで鼻が布団でふさがって窒息した可能性は高いと思われる。
では、このような事故を防ぐためには、どのようなことをすれば良いのだろうか。
このような事故を防ぐために出来ること
子どもの睡眠時間中にできる、具体的対策について。
0〜2歳の子どもを預かる乳幼児保育園では、0歳児は5分ごと、1歳児は10分ごとに睡眠体制チェックを行うことが大切である。
睡眠チェックシートにどのような体位で寝ていたかを、時間ごとに矢印で書き込んでいく。
そしてその結果を、お迎えの時に保護者に伝える。
0歳児と1歳児については、毎日「午睡チェック兼うつぶせ寝を返す係」を置き、午睡チェックとうつぶせ寝ひっくり返しをくりかえす人を設けるのが理想である。
睡眠チェックを担当する人はチェックに専念し、合間にうつぶせ寝に気づいたらすぐにあおむけに返す。しかし、人員不足でその係を設ける余裕がない保育園が多いのも現実だろう。
その場合は、最低1~2名の保育者は子どもが寝ている部屋にいて、その時間は製作や記録ノート書きをしたり、キッチンタイマー等で時間を測り、時間ごとにアラームを鳴らすなどの工夫ができるだろう。
また、子どもが寝ていても表情が分かるように、カーテンを開けておくことで、他の職員に発見される可能性も上がるだけでなく、緊急時により早く対応できることにつながるだろう。
乳児のうつぶせ寝は、肺がうまく機能できず、窒息死する危険が高まる。
また睡眠チェックの際は、寝ている一人ひとりの子どもの周辺から、窒息につながる恐れのある物を全て確実に取り除くことが大切だと考える。
例えば、やわらかい布団、タオル、枕、ぬいぐるみ、ヒモ類、吐しゃ物、食べ物、小物、顔にかかっている布などである。
それでも万が一窒息の危険を発見した場合には、すぐに正規、非正規、有資格、無資格を問わず可能な限りの情報を共有することが重要である。
あおむけ寝で、すやすやと眠っているように見えても乳児が突然死することはある。
「死亡に至るような異常は、私たちの園でいつ、どの子に起こってもおかしくはない」と考え、どの保育施設でも、異常の早期発見と救急救命対応ができるようにしておくことが大切である。
家庭の現状から見た子どもの育ちの問題と、その解決策
もう一つ、子どもの育ちに関する問題と、その具体的解決策について述べる。
現代社会において、「家庭の教育力の低下」が大きな問題となっている。
日々の生活の中で、遊びや地域社会で、大人になるために必要な身体能力や道徳観、社会性を身につけていた以前に比べて現代では、生活の中で自然に身につく育ちがなくなってきた。
地域社会全体や生活全体の中で子どもが育つ教育をすることが難しくなってきたということである。
その背景として、地域社会の交流の希薄化や核家族化、女性の共働き等のライフスタイルの変化などが挙げられる。
特に、地域内の交流の減少や核家族化により、母親が、抱えている育児に関する不安を相談する場所や機会が減っている。
また、様々な情報が溢れ返る現代の中で、何が正しいのかの見極めが困難になっており、その結果、子育ての方法がわからず、育児不安を一人で抱える母親が増えているのである。
この問題を解決するために、具体的な解決策を2つ挙げる。
中継役を担う保育士
1つ目は、保育士として、「様々な中継役を担うこと」である。
ある時は「子どもと子ども」、ある時は「子どもと保護者」、そしてある時は「子どもと先生」というように、様々な中継役を担うことが重要であると考える。
これは、「子育て支援」と「子育ち支援」の両方に保育士が関わることとも言えるだろう。
「子育て支援」とは、子育てをしている親や保護者への支援である。
なぜ子育て支援が必要かというと、先ほどにも述べたように、子育てを社会全体や生活全体で行ってきた慣行が崩れ、現在は保護者にその大きな負担がかかっているからである。
そこで保育士が、保護者と子どもの中継役を担うことで、保護者の育児の悩みの相談に乗り、保護者がより前向きな気持ちで育児ができるように援助をするのである。
また、保護者の話や悩みを聞いてアドバイスをする時に大切なことは、「その保護者もあくまで一人の人間だということを念頭に置き、尊重して話を聞くこと」である。
子育てをする保護者は、どうしても親としての面しか見られにくい。
その結果、子どものためなら何でもできるだろうと勘違いされ、それが親にとって負担になる場合が少なくないのである。
だから、保育士は常に、保護者も一人の人間だということを常に心に留めて、その人自身の人権を尊重して言葉かけをすることが大切である。
次に「子育ち支援」とは、子どもたちが健全に育つための支援である。
子育ち支援が必要な理由は、親や保護者の育児の悩みの状況に相まって、その影響が子ども自身の育ちの環境や条件の劣化につながっているからである。
そこで保育士が、子どもと子ども、子どもと保護者の中継役を担うことで、一人一人の子どもの保育園での様子や家庭での様子を把握し、子どもをより理解して、適切な声かけや援助につなげるのである。
情報周知・広報活動の重要性
2つ目は、「育児や子育てに関する相談ができる場所がそれぞれの地域の中にたくさんあることを保護者に知ってもらう活動をすること」である。
公益社団法人日本助産師委員会や、政府広報オンラインでは、子育てや育児に関する悩みを相談することができる。
公益社団法人日本助産師委員会では、北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県のそれぞれの場所で、子育ての悩みなど幅広く相談できる。
場所によっては、来所しての相談の他にも、それぞれの家庭に訪問しての相談、学校等への講師の派遣などを行っているセンターもある。
中でも、栃木県の子育て・女性健康支援センター、富山県の富山県助産師会、島根県の子育て・女性健康支援センターしまねでは、24時間年中無休で相談を受け付けている。
また政府広報オンラインでも、子ども保護者などが夜間・休日を含めて24時間いつでも相談でき、都道府県および指定都市教育委員会などによって運営されている全国共通で電話相談できるダイヤルがある。
また、休日や夜間に子どもが体調を崩した時にどのように対処したらよいのか、病院を受診した方がよいのかなど判断に迷った時に、小児科医師や看護師によるアドバイスを受けられる機関もある。
他にも、育児や子育てに悩んだときなどの相談窓口として、全国共通ダイヤルに電話をかけると、発信された電話の市内局番等から当該地域を特定し、管轄する児童相談所に電話を転送する、厚生労働省による児童相談所全国共通ダイヤルもある。
加えて、子どもの発育や発達育児に関する相談や子どもの家族の健康に関する相談、子どもの家族の食生活相談ができる「健康相談・栄養相談」、毎日の育児の悩みや子どもへの接し方やその方法、子育て環境への悩み相談ができる「育児相談」、心配ごとや悩んでいること、生活全般の相談(子どもからの相談も対応)ができる「心配ごと相談」など、全国の各地域には、子育てについて相談できる様々な場所がある。
子育てに悩んでいる保護者の方に、このような場所があることを知ってもらう活動をすることが大切だと考える。
そのためには、保育士としては保護者から子育ての悩み相談を受けた時などに、自分からアドバイスするだけでなく、それぞれの地域でこのような機関で相談できるということを具体的に伝えることも、問題の解決につながるのではないだろうか。
保育士に求められる資質や条件
改めて、この事故で大切な子どもを亡くされた被害者の遺族の方にとって、一生懸命育てていた我が子を突然亡くしたことは、この上なく辛いことだと思う。
心の準備が何もできていない中で、突然最愛の子どもを亡くしてしまったことは、きっと何年時が経っても忘れることのない、消えることのない悲しみだと思う。
このような辛い思いをする方が今後いなくなくなるためにも、今後次のような保育士が求められると思う。
まずは、どのような時でも子どもの命を守ることを一番に考えられる保育士である。
子どもを預かるという仕事が、子どもの大切な命を預かる仕事だということを常に心に留め、いつでも子どもの安全を第一に考え、子どもの成長を援助することは保育士にとって欠かせないことである。
保育者には子どもを保護する責任がある。よって保育をする際には、個人の価値観ではなく、援助者としての価値倫理を判断基準とする必要がある。
1994年の4月22日に日本で批准された、子どもの権利条約の158番目の項目の中に「生きる権利」が最初に書かれてあるように、まずは子どもの命を守ることを第一に考える必要がある。
常に子どもの安全を確保し、子ども達が心地よく過ごせる環境を整えることが重要である。
その上で、「子どもからのサインを見極め、適切な援助を行うこと」が重要だと考える。
特に乳児期の子どもは、言葉ではなく仕草によってサインを出すことが多い。
例えば食事を例に挙げると、子どもが嬉しそうに口をあーんと開ける→全部食べたよというサイン、口を開けて残っている食べ物を見せる→これ以上食べられないというサイン、お皿の中の食べ物を指差す→次はこれを食べたいというサインなど、子どもは場面ごとに様々なサインを出している。
また、乳児が口を閉じて「マ」「マンマ」「バ」等の発語を始めたら、上唇で食べ物を取り込むことができるようになった証拠であり、舌を上下に動かしたり、上顎を下に押し付ける発音である「タ」「ダ」等の発語を始めたら、舌で上顎に食べ物を押し付けてつぶすことができるようになった証拠である。
同じように、喉を締めて発音する「カ」や「ガ」等の発語を始めたら、食べ物をまとめて飲み込むことができるようになった証拠である、というように、保育士はそのサインをしっかりと見極め、できるだけその場で、タイミングの良い対応や声かけを行うことが大切である。
また、食事介助中はできるだけ保育士は席を外さない工夫をし、黙って集中して食べている子どもに不必要な声かけをしないことも大切である。
このように、子どもが健やかに育つには、保育士の適切な援助が重要である。
それを積み重ねることで子どもの健やかな成長を支え、後にそれが子ども自身の情緒の安定や自我の形成につながる。
また、命の大切さを日々実感するための活動として、NPO法人では、将来結婚して家庭を持つ意義を考える機会を提供する取り組みを行なっている。
その一環として、主に0歳の赤ちゃんやその親と触れ合う機会を提供して、命の尊さや子どもを育てていくことの大切さを学ぶ事業実施をしている地域もある。
目的は、たくさんの方が小さなかけがえのない命に触れることや、親の子育てのモチベーションを上げることである。
日々子どもと関わる保育士は、このように地域の活動にも積極的に関わり、様々な親や赤ちゃんと触れ合うことで、命はかけがえのないものだということを常に意識し続ける必要がある。
実際に命と触れ合うことで、その尊さや大切さがより実感できると思う。
そして、子育てに奮闘する保護者とも触れ合い、子育ての大変さや子どもの成長を感じる時など、様々な話を聞いて保育の仕事に役立ることが大切だと考える。
このような保育士を増やすためには、当然免許や資格を持っているだけでは不十分である。
子ども一人一人を大切にし、幸せを願いその成長を支えることが何より大切である。
そのために、日頃からいろいろな人と出会って関わり、いろいろな考えを知ってそれを受け入れる姿勢が大切である。
その時代に応じた知識と技術を持ち、常に自らの行動を振り返って創意工夫をし、考えを深めて次への進歩につなげる。
それが、子どもの健やかな成長と可能性を伸ばすことに大きくつながるだろう。
保育をもう少し広く捉えると、子どもの育つ場での社会的な連携も重要である。
まず保育者の役割は、子どもの命を守り、適切な援助をすることで、その子の健やかな成長を支えることだと述べた。
そのためには、保育者は専門的な保育や子どもの発達の知識を身につけ、一人ひとりに応じた発達の援助を行う必要がある。
また、それに対して市町村は、施設型給付や地域の子ども子育て支援事業で、経済的に保育を支援したり、乳児の家に訪問して親の負担を減らす乳児家庭全戸訪問などを行ったりして、保護者や保育者の援助をすることが必要である。
そして国主体では、仕事子育て両立支援事業として、多様な就労形態に対応した保育サービスの拡大や、ベビーシッターの利用支援事業を増やすなど、国全体の保育をバックアップする必要がある。
このように、それぞれが協力し合うことで、質の高い保育が行われると考える。
一人でも多くの、子ども、保護者、そして保育士が笑顔でいられることを願ってやまない。